PDN Analyzer
PCB 設計レイアウトの実際の性能は、多くの要素(レイアウト後のシグナルインテグリティ解析のような PCB デザインの解析ツールを通して、ある程度、予測できます)に依存します。しかし、'経験則' に委ねられて見落とされたものは、DC 電源伝送システムに関して、最も効率的なレイアウトデザインにするために必要になる場合が多いです。これは、DC 電源や、その GND、または共通のリターンパスが通る、銅箔領域の評価が必要であることを表します。目的は、DC 電源レイアウトの信頼性を維持する効率的なデザインです。
高速回路、複数のデバイス、密集した基板、複数の電源を特徴とする現代のデジタル設計で、DC power distribution network を利用して、より正確に設計の分析を行えます。Power Deliver Network (PDN) の DC 解析、または DC Power Integrity (PI-DC) により、電源を負荷へ流すために適切な銅箔を作成できます。言い換えると、プレーン、配線、ビアを適切なサイズや特性にして、デバイスの電源消費に関する要件を満たすことができます。
DC Power Integrity (PI-DC) シミュレーションツール(電気的、物理的な特性に基づいた基板のDC性能を解析します)の power delivery network (PDN) で PCB を評価することで、確実な設計作業を行えます。このツールは、CST® (Computer Simulation Technology) による PDN Analyzer としてAltium Designerで利用できます。
現在、リリースされている情報については、PDN Analyzer Release Notes ページをご覧ください。
Getting Started with PDN Analyzer の動画をご覧ください。
Altium Designer のサンプルファイル(Spirit Level)による PDN Analyzer のインターフェース。電源 VCCINT に対する Top layer GND ネットの PI-DC 電圧降下シミュレーション結果。
パワーインテグリティの要点
本質的に、PI-DC (または、'IR 降下') の問題は、比較的単純です: 電源を形成(配線、ポリゴン、プレーン等)した抵抗は、電源や電圧を消費します(様々な負荷から奪われます)。IR の問題は、電源や GND の銅箔の経路を通して、電源の負荷の数が増えると複雑になります。
図 1(上図)は、電源回路の簡単なブロック図を示します。電源と GND は、配線やプレーンで形成され、様々な負荷(メモリー、マイクロコントローラ等)へ電源を供給します。全ての負荷は、同じ電源と GND に関連し、それらの形状に依存して負荷の動作電圧が供給されることに注意してください。一般的に、それらの電源と GND では、0Ω の抵抗であると仮定する傾向があります(仮定であるため、問題を引き起こす可能性があります)。比較して言うと、大きな電流が流れる場合、電源や GND の小さな抵抗でも、重要な電源消費や電圧降下を引き起こす可能性があります。
図 2 は、電源や GND が適切に考慮されていない場合に起こる問題の例です。各電源や GND の銅箔で、0.25 (¼) オームの小さい抵抗があっても、5V から 4.5V まで電圧が降下しています。最終的な設計で失敗しないように、設計者は、この降下に気づき、調整する、またはそれを減らすためにデザインを変更する必要があります。
しかし、この問題は、影響を受けない抵抗とするために(R = ρ * L/A
の関係を使用)電源と GND の銅箔を短くする、または大きくすることで、容易に解決できると思われます:
R
は、銅箔(配線、またはプレーン)全体の抵抗ですρ
は、銅箔に使用した材料の抵抗です(一般的に銅はρ ≈ 1.7µΩ-cm
)L
は、銅箔の長さですA
は、銅箔の断面積です(幅 * 厚さ)
要するに、電源と GND の銅箔を短く、厚く、広くした場合、抵抗を最小限にできます。
しかし、その難点は、貴重な配線領域を使ってしまい、他の電源の銅箔領域が制限されてしまう可能性があります。適切なサイズの電源と GND で形成されているデザインは、より小さく、大きいプレーン、または配線を使用しているものより層数は少ないです。PI-DC 解析の意図は、電源と GND の銅箔が十分で、過度に大きくないことを設計者へ知らせることです。
IR 降下に関するその他の考慮すべき点は、消費した電源の合計が I2R
になると言うことです。そのため、抵抗によって増加した少ない電流が、電源の消費を大幅に増加させます。これにより、電源と/または GND の銅箔が、電流を流すのに十分な大きさでないため、熱の問題が起こります。電源と GND の銅箔を調整し、IR 降下を小さくして、電源の消費を最小限にします。
銅箔に大きな抵抗があり(非常に狭く長い)、大きな電流が流れる場合、銅箔は溶解し、結果的に設計は失敗となります(あるいは、危険な状況となります)。PCB 導体許容電流に関する IPC-2152 基準では、この問題を扱っています。しかし、悲観的な仮定(例えば、発熱しないように熱伝導性の銅箔を使用しない)や、保守的な仮定をしてその仕様を適用する(例えば、最低限の温度上昇を許可)場合を除きます。PI-DC では、熱を考慮した指標として IPC-2152 基準を使用できませんが、設計者が、電源伝送システムの電圧降下や電流密度を勉強して、どのように最適化できるか参照できます。電源と負荷間で、電流密度や電圧降下が低いデザインでは、発熱も少なく、熱の問題はほとんどありません。
PI-DC 解析で扱えるその他の面は、電源伝送に使用するビアの量です。この難問は、銅箔サイズが適切かどうかと同様です(十分なビアが無い場合、電圧が下がり、IR 降下によって電源が消費されます。しかし、ビアが多すぎると、配線領域が失われます。)。特に、特定の電圧経路で、あまりに多くのビアを使用した場合、ビアは他のレイヤ上の銅箔へ接続され、銅箔の横断面が減ります。これにより、それらの他の電圧に関する問題を引き起こします。銅箔を正しい大きさにするのと同様に、負荷で電圧を解析して、ビアサイズと/または数を適切に調整できます。
最後に、最終的なデザインをシミュレートするのに重要な利点があります(物理的に表示され、最適化されます)。PI-DC シミュレーションでは、例えば、設計中、負荷が降下、または追加された場合に、コネクタやレギュレータが、適切なサイズか最終的にチェックされます。
PCB の様々な電源、GND の銅箔やビアによる電圧降下のデータが無いと、設計者は、過度なプレーンの銅箔、配線サイズ、ビアを使用して、保守的になります。これにより、設計領域を消費し、層や基板のフォームファクタが増えます。Altium の PDN Analyzer では、設計者が、最も効率的に電源を分配できるように、DC 電源の分配に関する正確な情報を容易に確認できます。
最終的なデザインの確認で、適切な結果になるだけでなく、電源伝送ができるだけ効率的になるよう、事前に、その計画段階でも使用できます。PI-DC は、最も効率的に電源伝送ネットワークを構築できる、非常に貴重なツールです。PDN Analyzer は、シミュレーションや解析を容易に、効率的に実行します。
PDN Analyzer には、その他に以下の利点があります:
- 製品の信頼性: 電圧レベル、電圧安定性、配線の熱/損失に関して、デザイン内で正しい性能を提供できます。
- 改善した PCB レイアウト: 基板領域を最も効率的に使用できる情報を提供し、問題となる高い電流密度の領域を容易に識別、修正できます。
- 知識: DC 電流経路のレイアウトを考える時、経験から得た方法、またはおおよその計算に頼りません。
PDN Analyzer シミュレーション
PI-DC 解析のためのボードレイアウトは、最も基本的な形式で、電圧レギュレータと負荷(相互に連結した銅箔領域)で構成されています。
上記回路の PCB レイアウト(層間をビアで接続した銅箔と配線)。
PDN Analyzer パネルのインターフェース (Tools » PDN Analyzer) では、電源と GND の経路や、電源を負荷へエミュレートする画面が表示されます(上記回路と図. 1 の概念ブロック図で示す通り)。物理的、電気的な情報(ネットリスト、デバイス、レイヤ形状等)は、アクティブな PCB デザインから自動で抽出されます。これは、PI-DC シミュレーションエンジン用のデータです。
上記回路とボードレイアウトに関する PI シミュレーション設定が表示された、PDN Analyzer パネルのインターフェース。
このインターフェースで初期パラメータ(電源/負荷電圧、電流等)を入力して、シミュレーションを実行したら、解析結果は、2D、または 3D でグラフィカルに表示できます。
ネット PWR の銅箔に関する、電圧降下のシミュレーション結果(U1 から RL まで)。
ネット GND の銅箔に関する、電圧降下のシミュレーション結果(U1 から RL まで)。
PDN Analyzer の PI シミュレーションでは、電圧(IR降下、上図)、または電流密度(下図)を表示できます。
ネット PWR と GND に関する、電流密度マップ(U1 から RL まで)。
PDN Analyzer の使用方法や、解析結果に関する詳細については、PDN Analyzer example guide をご覧ください。
インストールとライセンス認証
PDN Analyzer のアプリケーションは、PDN Analyzer Extension をインストールして Altium Designer へ追加されます。これを利用するには、ソフトウェアライセンスが有効である必要があります。
拡張機能をインストールするには、Altium Designer の Extension Manager (DXP » Extensions and Updates) の Purchased タブを選択し、PDN Analyzer powered by CST® アイコンの ボタンをクリックします。それから、Altium Designer を再起動して、アプリケーションを有効にします。
PDN Analyzer をインストールする前の拡張機能アイコン。
インストールしたら、その拡張機能が Extension Manager の Installed タブ下に表示されます。PDN Analyzer ツールは、回路図、または PCB プロジェクトドキュメントを開いた時、メインの Tools メニューにある PDN Analyzer から利用できます。PDN Analyzer のライセンスが無い時、Start Simulation ボタンの箇所にその状態が表示されることに注意してください(ライセンス認証手順については、以下をご覧ください)。
拡張機能のインストールや管理の詳細については、Altium Designer Extensions ページを参照してください。
PDN Analyzer のライセンス認証は、Altium の標準のライセンス認証方法(Altium のライセンスサーバから On-demand、または Standalone ライセンスを、または社内ネットワークの Private License Server から認証して)と同じです。
Altium のライセンスサーバから取得したライセンスを利用するには、Altium Designer の License Management ページを開き、Available Licenses リストで On-demand、または Standalone の PDN Analyzer powered by CST® ライセンスを選択します。そして、Use リンクをクリックします。
ライセンスを認証した時、Assigned Seat Count の数が増え、Used 欄に 'Used by me' と表示されます。
ライセンス認証やライセンスタイプの詳細については、Altium Designer Licensing ページをご覧ください。